1)中学での英単語の発音・覚え方の指導について
(2017年8月改訂)
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①発音指導が不十分な学校があるのでは?
英語の授業を英語で行う時に注意していただきたいこと
発音が苦手な先生へ
②英単語の綴りを書くことが苦手な生徒への支援が必要なのでは?
③英単語の覚え方の指導も必要なのでは?
①発音指導が不十分な学校があるのでは?
塾の講師をしていて、気づいたことがあります。それは、「英語の発音がうまい生徒と、うまくない生徒の間に、相当な格差がある。」ということです。
現在、多くの公立中学校でも、ALTを入れ、さらにスピーチコンテストを行ったりで、英語の話す力の向上に力を入れているのはわかるのですが、格差の広がりを感じます。理由の1つと考えられるのは、「幼児・小学生対象の英会話教室で、学習経験があるかないか」です。幼いころから「恥ずかしがらずに英語らしい発音を練習できる」というのは、その後の英語学習において大きなメリットになりますが、すべての子供が、このような経験をできるわけではありません。
そこで、このホームページのL, F, V, N, th…これが日本人の苦手な発音でも説明していますが、ある程度の発音の決まり(基本的なフォニックス)を、中学入学直後、生徒にしっかりご指導いただけないでしょうか。特に、Nの発音については、自分自身大変苦労しました。理論でわかってしまえばとても簡単なのに、残念ながら、多くの英語指導者と接してきて、Nの発音を「ン」ではなく「ヌ」のようにすると、正しく教えてくれた人は、いませんでした。知り合いのネイティブ(カナダ人)に、「oneの発音は、最後に舌の先が上の前歯の裏側にタッチしますよね」と確認すると、「初めて気がついた」と言われました。彼らは何も気にせず発音しているので、日本人がその発音をできない理由がわからないのです。
Nの発音について、わかりやすい例を上げると、チキンハンバーガーをオーダーする時の、「chiken」という単語です。まず、「i」にしっかりとアクセントを置き、語尾のnを日本語の「ン」ではなく、「ンヌ」と、ぬける感じで発音できれば、簡単に相手に理解してもらえます。しかし、それができていないと全く通じません。
「hat」など、強くアクセントを置くべき「ha」を、うまく出せない生徒の指導で、口の前にティッシュペーパーをあて、紙がしっかり揺れるように発音してみるなどの指導をする先生がいるそうです。かなり効果がありそうです。このネット社会、日本人が苦手な発音を、うまく指導できる方法を、先生方で共有できないものでしょうか。
また、発音の苦手な生徒は、like→likesのように一般動詞を3人称にする時や、box→boxesのように名詞の単数形を複数形にする時など、発音が得意な生徒は自然にできるようなことができません。わかりやすく、発音練習を何度もできるような教材を作ってみましたので、参考にしていただけたらありがたいです。
参考: 動詞の原形・3人称単数現在形・現在分詞の一覧
参考: 覚えておきたい名詞の単数形・複数形
私は、発音に関して、ネイティブのようにきれいな発音にならなくてはいけないと言っているわけではありません。ボーイスカウトの海外スカウト受け入れ計画のお手伝いなども含め、30か国以上の外国人と、英語で話した経験がありますが、発音が下手で、英語を話すのに躊躇したり恥ずかしがるのは、日本人くらいです。英語が母国語ではないのに、完璧な発音などできなくて当然と思っているようです。英語が母国語の人も、そのことで、相手を馬鹿にするようなことはありません。
英語は母国語ではないのですから、通じる英語が話せれば、十分なはずです。私は、外国の在住経験も留学経験もない人間ですが、通訳案内士の資格を取れました。こちらのサイトで紹介しているルールで発音していれば、通じる英語を話せるようになります。通じる英語を話せるように、最低限の発音のルールを、生徒にご指導いただきたいです。
《英語の授業を英語で行う時に注意していただきたいこと》
文科省から、「英語の授業は英語で!」という話が出る中、英語を話すことが得意な先生の中には、いきなり授業中にペラペラ英語をしゃべって、生徒を困惑させている方もいらっしゃるようです。英語は知識をひけらかす道具ではありません。コミュニケーションの道具です。いくらご自分の英語に自信がおありでも、生徒が全く理解できないのでは意味がありません。また、幼稚園児向けの英会話教室の担当者研修では、腹式呼吸から練習させられます。明瞭な声と言うのは、極めて大切だと、事業者が認識しているからです。しかし、生徒に不人気の先生の授業を見ると、声が通りにくく、確かに、通じる英語は話されていましたが、生徒達には全く伝わっていなかったということもありました。ご自分の英語が、生徒たちに理解されているか見極めてください。生徒達を置いてきぼりにしないでください。
中学レベルでは、ある程度使うフレーズも限られてくると思います。英語が苦手な生徒が戸惑わないよう、あらかじめ使用する指示文などの、発音と意味を教えてから授業を進めると、理解されやすいのではないでしょうか。
中学・高校の授業で使われる英語での指示文 のページで、授業内で役立ちそうな英語のフレーズを少しずつまとめています。まだまだ十分ではありませんが、このようにまとめたものをプリントにして、予め生徒に配布するなど、リスニングが苦手な生徒にも配慮いただけたらと思います。生徒が理解できる授業をお願いいたします。
《発音が苦手な先生方へ》
《余談です》
《 2011年に、「2012年度の市の事業に対する事業仕分」の「市民評価員」に選定され、「外国語指導助手(ALT)に要する経費」の事業仕分に同席する機会がありました。その際、「なぜALTが必要なのですか。」という仕訳人の質問に対し、市の担当者は、「ちゃんとした発音ができるように」という事を何度も強調されていました。仕訳人から、「その役目は日本人の先生ではだめなのですか。」と返され、かなりやり取りが紛糾した記憶があります。私個人としては、「外国人と日本人がコミュニケーションをとれる素晴らしい機会を得られるALTの活用」には賛成なのですが、問題なのは、「なぜ市の担当の方が、発音ばかり強調してしまったか」ということです。》
私は、中学校で初めて英語の正しい発音を教えるならば、ネイティブの外国人より、英語を母国語としない日本人の方が向いていると思っています。(幼児のように、物まねが得意で、ネイティブのような発音をすぐできてしまう生徒は別ですが…) 中学生では、大きな声で英語を発音することに、抵抗を感じる生徒もいます。発音の苦手な生徒は、なかなか治りません。そんな時、「正しく英語を発音できるためのノウハウ」を教えてあげると、耳から聞いて、ただ真似をするよりも、ずっと生徒に理解されやすいです。日本人にとって、発音するのが苦手な部分を、わかっていない外国人は多いです。(特に語尾にNがつく場合)
今、発音に苦手意識のある先生方に言いたいことは、アルファベットの基本的な発音の仕方が分かり、アクセント位置さえ間違わなければ外国人には通じるということです。以下の発音の仕方は、1日で基本は理解できると思います。理解したら、あとは練習するだけです。是非試してみてください。
アルファベットのフォニックス
L, F, V, N, th…これが日本人の苦手な発音
また、どうしても自分の発音がうまく行かなければ、発音のやり方(テクニック)を生徒達に教えてあげてください。ネイティブのALTが教えるよりも、理論的に説明する方が、英語が苦手な中学生は理解しやすいと思います。生徒が上手くできたら、「私より発音が上手だね。」と褒めてあげれば良いだけのことです。その方が、生徒達は気分良く、英語の勉強を続けてくれるのではないでしょうか。
②英単語の綴りを書く事が苦手な生徒への支援が必要なのでは?
英単語を覚えるにあたり、私が一番大切だと思うのは、「読める」そして「意味がわかる」ということです。「英単語の綴りを書ける」というのは、その後の話と思います。ネイティブの学生でも、最近はネットの影響か、正しくつづりを書けない生徒も増えているそうです。しかし、そんな生徒でも、もちろん英語でコミュニケーションはとれるのですから・・・
しかし、今の日本の中学校では、残念ながら「英単語の綴りを正しく書けること」に、かなり重きを置いているように思えます。もちろん、正しい綴りを書けるということは、大切です。ただ、そこに、多くの時間を費やし過ぎて、結果的に語彙力の不足を招いているのが気になります。また、綴りを書けるのに、意味がわからなかったり、正しい発音がわからないということもしばしば起こり、これも大問題だと思います。
また、「綴りを覚える能力は、個人差が大変大きい」ということが、あまり考えられていないことが気になります。幼少期に英会話を習っていて、中学入学当初は英語が好きだったのに、綴りがなかなか覚えられず、英語嫌いになってしまう生徒を多く見てきました。
綴りを書くのが苦手な生徒は、次のどれかの特長があります。
①ローマ字を書くことも苦手である。
②アルファベットの基本的な発音のルール(フォニックス)が全く理解できていない。
③1つの英単語を書く時、1度見ただけではノートに書けず、何度も見ながら書いてしまう。
ローマ字と英単語は全く関係なく、ローマ字を教えることが、日本人の発音を悪くしていると思われている方もいるようですが、そんなことはありません。例えば、「ぺ」をローマ字で表すと、子音の「p」(プゥ)と母音の「e」(エ)の組み合わせて「pe」になるわけですから、「p」の正確な発音・フォニックスを指導できれば、ローマ字を覚えながら、英語の正確な発音も覚えられるのです。
「ト」は、子音の「t」(トゥ)と母音の「o」(オ)の組み合わせの「to」です。もしこの時点で、「t」の発音・フォニックスをしっかり指導できれば、「pet(ペット)」の綴りを見れば、これは、日本語の発音「ぺット」と違い、「ぺットゥ」のように、語尾の子音を息が漏れるように、英語らしく発音ができるはずです。そして、この発音ができれば、逆に綴りを書く時も、必ず語尾を「to」ではなく「t」に、できるはずです。
中学2年生で、基本的な発音のルールさえ理解していれば、簡単に書けるはずの「desk(机)」も書けないという生徒に、何人も出会いました。ただ、このような生徒に、英語のフォニックスの基本ルール を教えてあげると、少しずつ綴りを書けるようになり、その後、英語の学習がスムーズに進むようになりました。
ごく基本的なフォニックスの指導で、英単語の「発音」と「綴りを書くこと」の習得に大変役立ちます。できれば、小学校のローマ字指導の際に正確なフォニックスをご指導いただくことが理想ですが、現状では難しいでしょうから、最低、中学1年の早い段階で、ご指導いただくことを望んでいます。
参考:ローマ字も英語らしい発音で練習しよう!
ローマ字も書けるし、発音も得意な生徒の中にも、綴りを書くのが苦手な生徒も居ます。そんな生徒の特徴は、1単語を何度も見ながら、ただ書き写すだけの作業を繰り返してしまうのです。生徒のそばで、視線の動きを観察していて気づきました。そんな時、「英単語は、一度だけしか見てはだめ。一度見たら、単語は隠して書くように。」と指導したところ、一生懸命単語を覚えて書くようになる生徒もいました。そういう場合は、心配ありません。すぐに上達します。しかし、それでもうまくいかない生徒もいます。そのような生徒に、ただ「書いて覚えて!」ということで、何回もノートに単語を書かせる宿題を出しても、全く意味がありません。
《余談です》
《 思い出深い生徒がいます。当時、彼女は中学1年生でした。塾に来た当初の彼女は、fatherやmotherの綴りを100回書いても覚えられませんでした。彼女の視線の動きを見ていて、彼女も、ただ単語を書く作業をしているだけだということがでわかりました。fatherを1度書くのに、2~3回、元の単語を見ているのです。さらに彼女には、LD(学習障害)あるいはADHD(注意欠陥/多動性障害)の傾向も見受けられました。その生徒に、「ざ~」のところは「T」「H」「E」「R」、「mother」も
「father」も「 brother」も全部同じと、何度も繰り返し言葉をかけていると、自分でも、「T」「H」「E」「R」と繰り返しながら単語練習をするようになり、しばらくすると書けるようになりました。一度できると自信も深まるのか、だんだん単語を覚えられるようになりました。一度は「彼女には英語は無理なのでは・・・」と、諦めかけたこともありましたが、彼女は中学卒業時、英検3級に届くレベルまで、英語がわかるようになってくれました。私が、英語学習で絶対必要と考える、「大きな声で音読」というのを、恥ずかしがらずにやってくれたことも、良い結果を出せた要因かもしれません。このような経験から、私は、「英語はその気になれば、誰でもできるようになるのだ。」という気持ちを、強く持つようになりました。》
綴りを覚える事が苦手な生徒に対し、「ただ書いて覚えさせる」というのではなく、「フォニックスを利用した覚え方」のご指導を、お願いしたいと思います。
参考:まとめて覚えると覚えやすい綴りの一覧
③英単語の覚え方の指導も必要なのでは?
わざわざ、「英単語の覚え方を教える必要などない。自分で工夫するものだ。」とおっしゃる方もいます。しかし、現実問題として、「出だしのつまずきがその後の英語学習に大きな影響が出る。」という事も事実です。
単語を覚えさせるために、「単語を何度も書かせる」というやり方は、割と一般的な気がします。しかし、上にも書きましたが、このやり方では、全く成果の出ない生徒もいるのです。私自身覚える事が苦手で、「単語をじっくり見て、形で覚え、覚えたら空でスペリングを言ってみる」というようなやり方で、やっと単語を覚えられるようになった記憶があります。
さらに、すぐに忘れてしまうので、単語帳やリングノートを作っていました。以前は一般的な事であった気がしますが、最近、このようなものを作っている中学生をあまり見かけません。IT時代ということもあるのでしょうか。学校の授業の一環として、単語の意味調べを自分のノートにさせたり、テキストに沿った市販のワークで、英単語の意味を書かせていることは、よくあるようです。しかし、文法や板書と新出単語を一緒に書かせたりしていると、生徒はどこを繰り返し勉強したらよいかわからなくなっているようです。覚えるのが苦手な生徒に「単語帳等を作る」というようなアイデアの指導は、あった方が良いと思うのですが、いかがでしょう。
なお、私は、中学1・2年生で、辞書を引かせて意味調べをさせたりするのは、時間の無駄と思っています。その時間があったら、多くの英単語を教えてあげ、覚えてもらう方が、英語力アップにつながるという考えです。異論も多いと思いますが、一度、以下のページもお読みいただければと思います。
参考:英単語・英熟語の覚え方、辞書の引き方について
「記憶について」でも書きましたが、人間は忘れるのが当たり前で、日常使う機会のない英語など、何度も何度も繰り返し覚える必要があるということを、生徒にもっとしっかり教えていただきたいです。また、文法の授業に沿って覚えた方が良い単語も多いので、覚えるタイミングを適切に支持することで、より成果が上がるはずです。特に、動詞の活用を教える時期などで、適切な指導ができている学校とそうでない学校では、大きな差が出ています。
(ネイティブの外国人でさえ、動詞の活用は覚えさせられるそうです。普段、英語を使う機会の少ない日本では、時間をかけて、生徒に覚えさせていただきたいです。そうでないと、暗記が苦手な生徒がかわいそうです。)
参考:覚えるべき文法…活用を覚えるべき時期について
さらに、「単語テスト」を頻繁に行う学校と、殆ど行わない学校でも、生徒の語彙力に差が生じています。以前は、「単語テスト」などくだらないと思っていましたが、実際、塾で教えてみると、生徒の勉強の動機づけには、「単語テスト」はとても有効と思いました。塾で単語を覚える必要性を訴えても、学校でテストがなければ、勉強しない生徒も少なくないのです。
ただし、暗記力に自信のある生徒の中には、テストの直前に単語を完璧に覚え、2~3日ですぐに忘れるという生徒も多いです。これでは、殆ど意味がありません。記憶の法則を考えると、1ヶ月間は、記憶に留める努力が必要です。新しい単語テストの際、何割かを、以前の範囲からも問題を出すなど、工夫していただけないかと思います。
《英単語は、読み方と意味を覚えることが重要では?》
英単語の綴りばかりを練習している生徒に、「その単語はどういう意味?」と聞くと、答えられない生徒も結構います。中学3年になって、英語が苦手だから塾に来る生徒で、英単語が読めず、意味も分からない生徒は、教えるのに本当に苦労しました。しかし、英単語を読めて、単語の意味が分かる生徒は、どんどん成績を伸ばしてあげることができるのです。
これは、勉強が苦手な生徒だけに言えることではありません。偏差値の高い高校に進学すると、英語の理解は、単語力によって大きく左右されます。私自身、高校1年の時に、1ページに30個も知らない単語があったのに、隣の生徒は、3個しか知らない単語がなかったという、衝撃的な体験をしました。これでは、英語力は開くばかりです。
単語の読み方と意味が分かるようになれば、多読・速読する時、またリスニングにおいても大変有利です。日常生活で、殆ど英語を使わない日本では、多読によって、何度も同じ英単語を目にする機会を得て、単語力定着につながるのではないかと思うのです。
中学1年の早い時期から、読み方と意味がわかる単語をどんどん増やせば、読解だけでなく、英会話においても役立つと思います。どうか、将来を見据えて、どのような指導が生徒達の英語力アップにつながるか、考えながら授業を進めていただければと思います。
1 中学校の英語教育について