8)その他、生徒指導で、問題と思われること


教科書の選定方法に問題があるのでは?
                      (2015.3/ 2017.3補足.)

公立中学校の英語の教科書の文法指導順が、地区の生徒の英語理解を困難にしているのでは?

 私は、私立、公立問わず、色々な学校の中学生、高校生を、11年以上に渡って指導してきました。そんな中、現在、ある地区で使用されている公立中学校の英語の教科書の、中学1年生の出だしの文法指導順が、その地区の生徒の英語理解を困難にしていることがわかってきました。

 公立中学校の教科書は、4年ごとに同一の教科書を使うことになっています。そこで、私は、2016年4月から使われる教科書が、生徒の英語理解を助ける最も良いものになることを願い、2015年5月から色々な活動をしてきました。結局、私の活動は、地域の生徒に合った教科書の採択には、結びつきませんでした。

 ただ、この活動を通し、なぜ、地域の生徒に合う教科書が採択されないのか、教科書採択方法の問題点が、はっきり見えてきました。ここでは、2015年(平成27年)に行われた教科書の採択前からの、地区教育委員会とのやり取り、教科書採択協議会の議事録(平成23年度分)の内容など、
「中学校の英語教育の向上には、地域の実情に合った教科書を選ばなければ、大変なことになる」 という強い気持ちから調べた、教科書採択方法の問題点をまとめました。

 教科書謝礼問題などもありましたが、学校の実情がわからずして、良い教科書など作れるのでしょうか。どうか、生徒たちが塾などに通わなくても、英語が理解できるような教材が選ばれるように、今一度「教科書採択方法」について、考えていただけたらと思います。

  2017年3月8日補足



 目次:ページ内リンク

 1.A市・中1の教科書の文法指導の順番と生徒の英語力の現状

 2.参考:その他の教科書と使用している市町村
              主要6教科書の中学1年導入部の特徴

 3.教科書採択方法の現状 (2015.5)

 4.問題点と私の行った活動 (2015.5.23-6.24)


 5.平成23年度、教科書採択地区協議会の議事録からわかったこと (2015.6.27)

 6.最終的に教科書展示会で出した私の意見2015.6.27

 7.
結論:平成28年度からA市で採用された教科書とわかったこと(2016.5,2016.12)

 8.参考:文科省のホームページより


 中学の英語という教科は、他の教科とは、全く異なる点が1つあります。それは、今のところ、中学1年が、生徒にとって教科として接する「初めて」ということです。そして、その
中学1年の1番初めの文法の教え方がうまくいくかどうかで、その後の生徒の理解が大きく変ってしまうのが「英語」なのです。小さい頃から英会話をやってきた生徒であっても、日常生活で英語を使用していない場合は、同様のことが言えます。

 2012年からの会話力向上重視という文科省の方針のもと、英語教科書の中学1年の文法導入部が、教科書によって大きく異なるようになりました。今までは、どの教科書を使っても、それほど大きな違いはなかったのですが、現在、「どの教科書を使うか」というのが、非常に大きな問題であると感じます。

 教科書選定において一番大事なことは、「中学1年の文法指導の導入部分が、生徒が理解しやすいかどうか。」と思います。中学2年、3年の部分がいかに良い教科書でも、中学1年の導入部分が、生徒が理解しにくいものでは、生徒の英語力低下と英語嫌いを促進してしまうのです。そして、「英語特有のこのような問題点を、教科書選定委員の方々に理解していただきたい」という思いから、2015年5月から、色々行動を起こしました。以下、時系列で書いていきます。

2015年から2016年、各種メディアで取り上げられた「教科書謝礼問題」について: 英語の場合、地域の生徒のレベルに合う教科書を真剣に選んでいただきたいところなのに、焦点が別に移ってしまいました。教科書の内容を、しっかり吟味する機会が失われたのではないかと感じ、非常に残念です。生徒達のことを思えば、謝礼問題より、教科書採択方法の問題について、新聞などメディアで取り上げていただきたいところです。 2016年5月2日≫



1)A
市-中1の教科書の文法指導の順番と生徒の英語力の現状

今までの一般的な中1の教科書では、be動詞の1・2・3人称を時間をかけて学んだ後に、一般動詞を履修するようになっていました。しかし、問題のA市の中1の文法の進め方は、be動詞の1人称2人称単数現在形→一般動詞の1人称2人称単数現在形→WhatHow many文→be動詞の3人称現在形→一般動詞の3人称単数現在形です。この教科書の構成は、概念・機能シラバス(Notional-Functional Syllabus)の進化版として位置づけられるCLT(Communicative Language Teaching)ではないか、という話も聞きました。完璧な文法構造の習得ではなく、学習者自身が意味を生成していくことを支援し、学習者のコミュニケーション能力を高める事を目標としているものだそうです。教科書会社に確認したわけではありませんが…。

 A市では、以前からbe動詞と一般動詞の使い分けに生徒の混乱が見られました。そのような中、このような構成になり、be動詞と一般動詞の使い分け」はもちろん、「英語に絶対に必要な主語という概念」も生徒に理解されにくくなっています。"What is that?" の質問に、"It is 〜"のように、"It"で受けるのが難しい生徒も、多く出てきてしまいました。

 実際、2014年の春から、「中学校に入る前に、ずっと英会話を学んでいて、英検4級を取得していた中学1年生」を指導しましたが、中学1年後半(2014年10月)には、かなり混乱してしまいました。ずっと英会話をやって来た上、塾に通っていてこの状況です。塾に通っていない、あるいは通えない生徒はどうなっているのか、大変不安に感じます。

A市使用教科書:開隆堂出版のSunshine
…千葉県内では、問題の市以外にも、この教科書は広く使われています。

 ただ、私は、「この教科書が悪い」という事を言いたいわけではないのです。「A市の状況に合っていないのではないか」という事を言いたいのです。


この教科書が悪いわけではない例:
 東京都港区でも、こちらの教科書が使われています。2014年の春と夏の2度ほど、私が家庭教師として英検対策をした港区立中学の生徒は、塾には通わず、学校以外の英語勉強は、通信教育の「進研ゼミ」だけを中学3年間履修し、中学3年生で英検2級を取得しました。同区では、小学生でも、be動詞、一般動詞の混ざった文の英会話に親しむ機会があるようで、その生徒は小学生の頃、「なぜ、質問する時に、"Are you 〜?"と"Do you〜?"があるか、とても疑問に思っていたけれど、中学生になって良くわかった」と言っていました。「教科書が悪かった」とは、とても言えません。さらに港区では、英検受験にも無条件で一人最大6千円程度の補助金が出るそうで、経済的に厳しい生徒でも、英検を受けることができます。また、近隣には外国大使館も数多くあり、日常的に外国語に触れ得る環境にあるということです。問題のA市とは、
教育環境が全く違うのです。
 
副教材について:
 
これは、余談になりますが、文法理解は、教科書だけの問題ではなく、副教材にもよるかもしれません。千葉県内でも、私立中学校では、教科書とは全く別に、副教材として、「文法別の基本文・解説・確認問題・応用問題」が一体となった文法書的ドリルを使用している学校が多くあります。そのような副教材を使うことで、生徒は自習でも、文法を理解でき、繰り返し学習して知識を定着させる際にも、役立つようです。しかし、同市も含め、公立中学校では、副教材として、教科書に準拠したドリルを使用し、文法書的ドリルのようなものは使用していないところが多いようです。教科書に準拠したドリルも良いのですが、それだけですと、文法の説明も、教科書に沿う形になり、不十分になりがちです。私としては、教科書に準拠したドリル1冊と、繰り返し使える文法書的ドリル1冊があると、生徒の英語理解に大変役立つと思うのですが、そのようになっていないのが現状です。塾などでは、広く使われているのですが…


2)参考:その他の教科書と使用している市町村


 以下、開隆堂以外にどのような教科書があるか、参考までに載せておきます。ここで注意いただきたいのは、「以下の教科書が開隆堂より優れている」という事を言いたいわけでは、全くないということです。

 千葉県C市は、校図書株式会社のTotal English を使っています。
Sunshineとの大きな違いは、こちらは、be動詞ではなく、一般動詞から文法を進めている点です。一般動詞の3人称単数現在形も、be動詞より先に指導するようです。同社ホームページによると、初期の段階から豊かな自己表現が可能になるという利点から,一般動詞を先に導入。また、一般動詞を先に導入すると,*I am play tennis. や *Tom is play tennis. のような間違いが減少するという研究報告もあるとのこと。


東京都教育委員会のページからも、各地区採用の教科書を見ることができます。
採択地区別公立中学校用教科書採択一覧(平成2427年度使用)

例:江戸川区他/東京書籍New Horizon 江東区他/三省堂New Crown

 この東京書籍と三省堂の2社の教科書は、
@be動詞(1・2人称単数・I, you)→ Abe動詞(3人称単数・he,she,it)→ B一般動詞(1・2人称単数・I, you) 
のように、割とオーソドックスな文法導入となっています。主語という概念の理解や、be動詞と一般動詞の使い分けに関しては、英語学習初心者でも、混乱が生じにくい教科書と感じます。



3)教科書採択方法の現状(2015年5月)

教科書の採択区域:都道府県教育委員会が「市若しくは郡の区域又はこれらの区域をあわせた地域に、教科用図書採択地区を設定しなければならない」とされています。その関係で、A市では、「教科書は、3市が1地区として、同じものを選定することになっているため、A市独自の選定は不可能」とのことでした。


採択者:A市では、教員・保護者を含む選定委員(非公開)が、公正に行っているということでした。
「中1の文法の進め方が、A市の状況では、生徒に理解されにくいのでは?」という事を、3年近くに渡って、A市教委に訴えてきましたが、「選定委員には、教員も入り、中1だけではなく、中学3年分全てを見て、厳正に審査している」ということで、私の声を届けるのは、非常に難しいと感じました。

《文科省のページからの情報》 市町村立の中学校で使用される教科書の採択の権限は市町村教育委員会にある。専門的知識を有する学校の校長及び教員、教育委員会関係者、学識経験者から構成される教科用図書選定審議会を毎年度設置し、あらかじめ意見を聴くこととなっている。通常、教科ごとに数人の教員を調査員として委嘱し、この審議会の調査・研究結果をもとに選定資料を作成し、それを採択権者に送付することにより助言を行う。
教科書採択に関しては、保護者をはじめ国民により開かれたものにしていくことが重要。


教員の採択権:教員には、現行制度上、直接の採択権はなく、 自治体によっては、教育委員会に対して教科書に関する意見を述べることのできるような仕組みが整えられている場合もあるとのことです。具体的には、所属学校を通じての意見文書提出や、教科書展示会で各社教科書の見本本を展示して会場に意見投書箱を設置するなどの方法がとられているとのことですA市では、教員全員から、直接意見を募ることはないようです。

 なお、2015年6月9日読売新聞朝刊に、「教員宅訪れ教科書宣伝」の見出しの記事が出ました。「複数の教科書会社の営業担当者が個別に教員宅を訪問するなど過度な宣伝活動があった」ということで、文科省から各教委に「教科書採択の一層の公正確保を図るため、格段の配慮を」と強く求めた(6月5日付通知)ということです。こんなことで、ますます
「教員に意見を聞かなくても良い」という、短慮な行動が出ない事を心より願います。


採択の時期:
 
教科書の採択は、教科書使用年度の前年度の8月31日までに行わなければならないこととされています。さらに、通常、4年間同一の教科書を採択することとされているということです。



4)問題点と私の行った活動 (2015.5.23-6.24

@現状を受けての「問題点」のまとめ:

 いろいろ調べてきて、わかってきたことは、
≪採択された教科書が、地域の中学生に合っているか」という視点が、教科書選定で抜け落ちているのではないか≫という事です。中身が充実していて、評判の良い教科書が、採択すべき教科書でしょうか。実際外国人に接する機会が多い地域、小学校の英語教育が「学習」として充実している地域とそうでない地域・・・中学入学時の生徒の英語力やモチベーションは、地域によってかなり違うと思います。地域の実情に合った教科書を選ぶことが大切ですが、そのようになっているとは思えません。

  このような中、特に思うのは、「現場の先生方のご意見を、なぜ聞かないか。」ということです。採用された教科書で、生徒の理解が難しくなっている印象は、塾の講師でも察することができるのです。そう考えると、現場の先生方で、指導の難しさを感じている方が居ないとは、とても思えません。実際生徒を指導している現場の先生方のご意見は、非常に重要なのではないでしょうか。先生方のご意見は様々だと思います。数人ではなく、多くの現場の先生方のご意見も、教科書選定の際の選定の目安にしていただきたいものです。

 本当に危惧していることは、「同市がこの教科書で、今と同様の指導をしていては、生徒の英語の理解はどんどん悪化してしまうのではないか」ということです。改めて書きますが、≪中学2年、3年の部分がどんなに素晴らしい教科書でも、中学1年の出だしの文法の進め方が生徒に合わなければ、生徒の英語力低下と英語嫌いを促進してしまう。≫のです。大学受験生を指導する時でさえ、主語の概念の欠如やbe動詞と一般動詞の認識の甘さが、英語習得の大きな障害となっていることを感じることがあるのです。


A私が各所に出した手紙
「教科書採択に興味を持っていただいた方へ」ということで、塾に通う生徒の保護者、市の国際交流協会、一部知りあいの保護者や市議会議員宛てに、現在使用中の教科書に対する私の考えとともに、以下のような手紙やメールを出しました。

 
 A市の場合、2015年6月19日(金)〜7月2日(木)の2週間9:00am〜16:30pm、中央図書館3階の保育室で、教科書の展示会を行うという事です(A市の広報誌でも公表予定)。閲覧者が、「意見を書き込むこともできる」ということなので、学校の英語の先生方、英語教育に関心のある市民の皆様に、是非、意見を書き込んでいただきたいと思います。私の意見と違っても構いません。ただ、多くの方が関心を持つことで、公立中学校の英語教育の充実につながるのではないかと信じています。



BA市教委・B市教委とのやり取り
 ↑ただただ、議事録の入手が大変であったという話です。

@A市教委への依頼(2015年5月23日、メール)
  業者との癒着を防ぐ意味でも、教科書選定者非公開というのは、理解できますが、教科書採択理由をはっきり公表しない限り、本当にその教科書が適切かは、市民は判断できません。この件については、文科省から「採択理由の公表」に努めるよう通知(下記参考)が行っているようなので、実際公表されているか、公表されていない場合は、市のホームページなどで、公表していただくよう、お願いいたします。


AA市教委回答(2015年6月9日、メール、ほぼ原文のまま)
  「3市で教科用図書XXX採択地区協議会を組織し行っております。そのため、教科用図書XXX地区協議会資料提供事務取扱要領に準じて資料提供を行っております。資料を請求する場合は、所定の様式により、当該年度の9月1日以降に教科用図書XXX採択地区協議会事務局(B市教育委員会)に請求することとなっております。」

・・・結局、2週間以上待ってB市教委電話番号(代表)のみ、教えて頂きました。また、「教科書選定に加わる保護者の選出方法」についても問い合わせていましたが、「現段階では返答できない」という旨の通知もありました。


BB市教委に問い合わせ(2015年6月10日午前、電話)
  担当者が不在という事で、「前回の教科書採択理由」をすぐには回答できないとのこと。ただし、回答が用意できなくてもその日のうちに、電話連絡を取りたいということで、電話番号を聞かれました。≪・・・誠意ある対応で感激する≫ 私からは、メールでも、今までの経緯など、詳細を書いてB市教委に送付しました。(時間かかりました。)

CA市教委より回答(2015年6月10日夕方、電話)
  「B市と話した結果、前回の担当はA市であったので、B市ではなく、A市から回答します。」という連絡が来ました。さらに、時間がかかるため、待って欲しいとのこと。

・・・5月23日から今まで、相当な労力と時間をかけ、話が振り出しに戻る。有り得ません。

DA市教委より回答(2015年6月17日メール)
  「標記の件につきまして、資料を準備しました。一度A市役所に足を運んでいただき、手続きをしていただければ、前回の外国語部分に関する議事録の資料の閲覧または写しを
提供できます。」とのこと。


・・・5月23日から依頼していて、教科書展示を6月19日に控え、6月17日のこのタイミングで閲覧に来いと言われても、そんなに暇ではないので大変です。前回の教科書の採択理由というのは、次回の教科書選定の資料として、とても重要なはずです。地域の生徒の英語理解の現状と、採択理由を照合し、「本当に前回最適な教科書採択ができていたか」を検証の上、今回の教科書選定作業に入るというのは当然のことと思います。それなのに、すぐに資料が揃わなかったといことに、大きな問題を感じました。

EA市教委より回答(2015年6月18日メール)
  「採択関係の資料は市への請求ではなく、XXX地区東部 採択地区協議会への請求となります。そのため、協議会長への請求手続きになりますので、今回のような形となりますが、ご指摘の件は協議会に伝えます。なお、資料公開につきまして、回答までに時間を要したことは課題として深く受 け止めております。」

・・・4年に一度の教科書選定ということで、「担当者も変わっていることでしょうし、簡単にいかないこと」だったとわかりました。「毎回担当者が代わり、複数市の場合は幹事(?)の市も代わる」のはわかっていることですから、なおさら、しっかりしたルールを作る必要があるでしょう。ITがこれだけ発展し、情報公開が要望されている世の中です。今後は、教科書採択手続きが完了した時点で、すぐに採択理由をインターネットで皆が閲覧できるようにしていただきたいです。そうすれば、今回のような混乱も、避けられるのではないでしょうか。


FA市教委訪問、「平成23年度、採択地区協議会議事録」写し入手(2015年6月24日)
・・・xxx採択地区協議会作成ということで、A市だけで処理が難しかったようですが、結局、採択理由開示請求から1ヶ月、大変な道のりでした。




5)平成23年度・教科書採択協議会の議事録からわかったこと


開催日: 7月中旬

参加者: 会長、事務局長 (他に事務員などいるかは不明)
      教科書採択委員 17名
       (投票総数が17なので、会長を入れているかは不明)
      外国語専門調査員5名 (調査員会を経て、調査結果報告)

対象教科書: 6社

内容:

@調査員による6社の教科書がいろいろな面において、適切なことと、各社の教科書の、長所を中心とした特徴説明

…調査員は、各社共通の事柄として、「小学校外国語活動からの接続を十分に意識した、適切な構成となっている」と発言しています。もし、すべての小学校英語が「学習」のレベルに達していれば、どの教科書でも良いが、A市の場合、小学校で学ぶ英語が、「親しむ」程度で「学習」のレベルには達していないため、すべてが適切な教科書とはとても言えない状況です。教科書は3市合同で採択される中、他の2市の状況はわかりませんが、「公教育」という事を考えれば、レベルの低い市の生徒目線で、教科書を選定すべきであると思います。調査員の数が少ないため、現状を十分把握できないのか、この点に全く言及がない事に驚きました。

A採択委員による質疑と、調査員による応答

…大いに問題を感じる質疑応答(議事録原文抜粋)
 
〈採択委員の質問〉
 一年生の最初の段階の導入のところですが、一般動詞で始まっている教科書とbe動詞で始まっている教科書、一般動詞とbe動詞から始まっている教科書と3種類の教科書があるのですが、指導される上で教えやすさの違いがあれば教えてください。

〈専門調査員の回答〉
 特に1年生の初期においては外国語活動からの接続が重視されると考えられます。小学校の外国語活動ではbe動詞の文、また一般動詞文は会話の中で慣れ親しんできています。ですから、扱う題材として順番は問題や混乱は起こらないであろうと思います。


・・・折角、採択委員から、的を得た質問が出ているのに、調査員の回答が上記のような簡単な回答となっていることが、驚きです。A市の今の中学1年生の英語の理解度を見ていただければ、大混乱が生じている生徒が多数出ていることがわかるはずです。


B協議(会長から発言を求められる)→発言なし→協議終結
・・・基本的に専門調査員の質疑応答のみで協議もせずに投票となっていることに、大変な驚きを覚えました。

C投票と開票
第1位者 13票、開隆堂出版
第2位者 3票、三省堂
第3位者 1票、光村図書


…採択委員から、せっかく1年生の導入時についての質問が出たにもかかわらず、調査員が「小学校の外国語活動ではbe動詞の文、また一般動詞文は、会話の中で慣れ親しんできていますからどの教科書でも問題ない」と説明し、協議でも、何の発言も出ませんでした。これでは、今まで使ってきた教科書が採択されて、当然かと思いました。また、教科書の内容についての質疑応答はわずかで、協議がなかったところを見ると、教科書採択委員の中に、英語を話せ、教育現場の現状を理解している人は、どのくらい居たのか甚だ疑問です。英語は特殊な教科です。素人が見ても、良し悪しがわかりずらいのも事実です。全教科の教科書を、同じメンバーで採択していることにも問題を感じますが、こんなことで、生徒に適切な教科書が採択されるのでしょうか。

参考:中学校の英語教育について/動詞(be動詞と一般動詞)の説明について



6)最終的に教科書展示会で出した私の意見(2015.6.27

 私は、千葉県A市で塾講師をしています。日本語から英語の翻訳やボランティアの通訳などもやってきました。そんな中、2012年に教科書が変更になってから、市内の公立中学校の生徒の英語力が落ちてきていることを危惧していました。同市の生徒の英語力が落ちたというのは、初めは、一部の塾講師の印象でした。しかし、教科書変更から2年ほど経過したあたりから、塾に通う生徒全体の、英語の実力テストの統計にも、明らかな成績の低下を見ることができるようになりました。中1前半のつまずきが、中2・中3になってからも、影響が出てしまっているようです。

 開隆堂出版の中学1年の導入部の文法は、「be動詞の1人称2人称単数現在形→一般動詞の1人称2人称単数現在形→What・How many文→be動詞の3人称現在形→一般動詞の3人称単数現在形」で進みます。この教科書の構成では、日本人が一番理解しにくいけれども、一番大切な、「主語という概念の把握と、be動詞と一般動詞の使い分け」に、混乱を生じさせてしまうのです。

 A市の教育委員会には、「市内の中学生の、主語の理解やbe動詞と一般動詞の違いについての理解が十分ではないため、中学の先生方に、しっかり指導してくださるように」と、2013年からメールを出したり、面会をして、お願いしてきました。私の運営しているホームページ上に、「問題点と改善策」も具体的に挙げ、私の考えもご理解頂いたり、教員研修の際、お話もして頂いたと聞いています。しかし、結局、ほとんど改善は見られていません。
     参考中学校の英語教育について

 このような経緯を経て、「A市の生徒の英語理解を深めるためには、教科書の変更しかない」と考えるに至り、A市教委に要望を出しました。しかし、A教委からの返答は、「教科書の採択は、3市合同で、採択委員会で適切に選定されているから問題ない」という事で、私の考えが受け入れられることはありませんでした。私は、教育関係に問題意識のあるA市議会議員に相談し、「教科書展示会時に、意見を投稿できる」という情報を得ました。また、文科省のホーム―ページなどから、「教科書採択理由を公開することを奨励」という文言を見つけ、A市教委に開示要望を出し、約1ヶ月かけ、「地区採択協議会議事録写し」を入手しました。

  平成23年度の採択会議では、外国語調査員は、各社共通の事柄として、「小学校外国語活動からの接続を十分に意識した、適切な構成となっている」と発言していました。もし、すべての小学校英語が「学習」のレベルに達していれば、どの教科書でも良いですが、A市の場合、小学校で学ぶ英語が、「親しむ」程度で「学習」のレベルには達していないため、すべてが適切な教科書とはとても言えないはずです。教科書は3市合同で採択される中、他の2市の状況はわかりませんが、「公教育」という事を考えれば、レベルの低い市の生徒目線で、教科書を選定すべきと思いますが、当時の会議では、このことに、全く言及がありませんでした。

 そんな中、2015年春、A市の新中学1年生の中に、今までになかった特徴を持つ生徒が現れ始めました。既に、中学1年後半から中学2年前半の実力を備えた生徒達が塾に入ってきたのです。理由を聞くと、小学校1年生から6年生までずっと公文や英会話教室で、英語を勉強してきたそうです。今までもそんな生徒もいましたが、文法理解が甘く、“Are you 〜?”の質問に、“No.”と答えられても、“No,I’m not.”と答えられなかったり、“Do you 〜?”の質問に、“Yes,I am.”となってしまう生徒がほとんどで、この質問に、完璧に答えられるということに、驚くと同時に、塾に行ける子と行けない子の格差が益々広がるのではないかと、危惧しています。

 何度も、書きますが、「公教育」という事を、一番に考えていただきたいのです。出来る生徒に合わせないでください。塾に通えない生徒目線で、教科書を採択いただきたいのです。「塾に通えなくても、学校で一生懸命勉強すれば、英語が出来るようになる」指導をお願いしたいのです。

 先生方の指導法を改善するのは、大変です。A市の現状を考えますと、東京書籍か三省堂の教科書の導入部が、一番生徒にわかりやすいはずです。なぜなら、1人称・2人称・3人称単数をbe動詞と結び付けて習うことで、「主語の概念」が把握できるからです。これをしっかり学んだ上で、一般動詞を学習し、「動詞は2種類ある」という意識を生徒に定着させられれば、生徒の混乱も防げ、より効率的な英語学習につながると思うのです。

 学校図書でも良いかもしれませんが、今までの指導順とかなり異なることで、学校現場に混乱が生じないか、少し不安です。光村図書の教科書は、小学校で、簡単な文法も含め、かなり英会話に親しんだ生徒向きと思われます。


2016年4月から、A市で使用する教科書の候補と導入部の特徴

東京書籍 ・New Horizon 
 @be動詞(I, you) Abe動詞(she, he, it)
B一般動詞(I, you)

三省堂 ・New Crown
 @be動詞(I, you) Abe動詞(she, he, it) B一般動詞(I, you)

学校図書・Total English
 @一般動詞I, you A一般動詞I,you,How many Bbe動詞I,youCbe動詞it

開隆堂出版・Sunshine
 @be動詞(I,you)A一般動詞(I,you)B一般動詞(What do you-?)Cbe動詞(it)

教育出版・One World
 @be動詞(I,you)Abe動詞(it) B一般動詞(I,you) Cbe動詞(he,she)

光村図書・Columbus
 @be動詞(I),一般動詞(I)…


  一市民が、ここまで調べるのに、とんでもない時間を要しました。ただ、今改善しなければ、A市の中学生にとって、大変な不幸になると思い行動しました。英語教育に関心のある方にも、出来る限りの方法で協力を呼び掛け、教科書を閲覧し、意見を入れていただくように、お願いしました。採択委員の方々には、是非、一般閲覧者の意見も選定資料として、考慮いただきたいと思います。
 「公教育」という事を一番に考え、「問題が出ている市」で学力向上が図れるような教科書を採択くださるよう、くれぐれもお願い申し上げます。

 詳しくは、私のホームページのトップページにリンクを貼っておりますので、ご覧ください。




7)結論:平成28度からA市で採用された教科書とわかったこと

 結局、今まで同様、中学1年生が理解するのは困難だと思われる、開隆堂出版のSunshineが採用されました。当たり前のことなのでしょうが、A市の教育委員会からは、私の方に一切説明も連絡もなく、また、教科書採択地区協議会で、しっかりした話合いが行われたかどうかもわかりません。協議会の内容を、インターネットで検索できるようにしてくだされば、簡単に閲覧できるのですが…。塾に行けない生徒が、英語理解に困難をきたすのではないかと、不安でいっぱいです。

 
教科書は、これで、4年は変更されません。今、私ができることは、A市中学1年生全員が、be動詞と一般動詞を覚える際、混乱しないように、市の教育委員会に教員研修などでしっかりご指導いただくように、お願いするのみです。
《2016年5月2日付けメールにて、市へ要望を出しました。》


英語の教科書の採択に関する問題点と私の要望:

 
上記の教科書採択協議会の様子でも書きましたが、採択委員の中で、英語教育の現状や英語を話せるようになるにはどうすれば良いか、正しく理解されている方は、どれくらいいるのでしょう。英語教員の中にも、英語を使いこなせていない方もいらっしゃるのが現状です。英語は他の教科とは違います。素人に良し悪しの判断がつくはずがないと思います。全教科の教科書を、同じメンバーで採択していること自体に、大きな問題を感じます。

 地域の学習塾の講師で、この問題に気付いている人は、少なくないと思います。しかし、問題は顕在化しません。その理由が、今回のことでよくわかりました。いくら部外者頑張っても、何も変わらなかったのですから…。

 一般人がここまでやるのに、多くの時間と労力を使いました。教育問題に真剣に取り組む皆さま、文科省、教育委員会、先生方、県議会議員、市議会議員など、関係者の皆さま、どうか一度、真剣に、この問題を考えてくださらないでしょうか。そして、マスコミの皆さま、「教科書謝礼問題」が、連日報道された時期もありましたが、本当に大切なのは、英語の教科書の中身です。謝礼問題にからみ、「先生方の要望を教科書改訂に取り入れることの大切さと難しさ」についての記事も見かけましたが、学校現場や行政にも、取材を重ねて、記事を書いていっていただきたいです。
先生方の質にかかわらず、塾に行かなくても、生徒が理解できる内容の教科書について、もっと焦点を当てていただきたいです。 (2016.12)


8)参考:文科省のホームページより

 文科省の教科書採択の方法(外部リンク)内の抜粋:

*共同採択

 採択地区は、平成26年4月現在全国で580地区あり、1県平均12地区となっています(表3参照)。また、1地区は平均して3つの市町村で構成されています。
 なお、共同採択地区内の市町村は、通常、共同採択を行うため採択地区協議会を設け、ここに学校の教員等からなる調査員を置くなどして共同で調査・研究を行っています。平成26年4月に無償措置法が改正され、平成27年4月1日からは、共同採択地区内の市町村教育委員会は、協議により規約を定めて採択地区協議会を設け、採択地区協議会における協議の結果に基づいて種目ごとに同一の教科書を採択しなければならないこととされます。


*開かれた採択

 教科書採択に関しては、保護者をはじめ国民により開かれたものにしていくことが重要です。具体的には、教科用図書選定審議会や選定委員会等の委員に保護者代表等を加えていくなど、保護者等の意見がよりよく反映されるような工夫をすることが求められています。
 また、採択に関する情報を公開していくことも重要であり、平成26年4月の無償措置法の改正により、義務教育諸学校については、採択権者が採択を行ったときは、遅滞なく、1.当該教科書の種類、2.当該教科書を採択した理由、3.教科書研究のために資料を作成したときは、その資料、4.教育委員会が会議の議事録を作成したときは、その議事録の公表に努めることとされています。


*採択の改善

 採択権者である教育委員会等の権限と責任により、より適切かつ公正に教科書の採択が行われるよう、平成24年9月、各都道府県教育委員会に対して、教科書採択の改善について通知しました。教科書採択の改善について(通知)参照)。


*平成27年度における教科書展示会の開始時期及び期間について

○文部科学省告示第三十三号

 教科書の発行に関する臨時措置法施行規則(昭和二十三年文部省令第十五号)第五条第一項の規定に基づき、平成二十七年度における教科書展示会の開始の時期及び期間を次のとおり指示するので、同条第二項の規定に基づき、告示する。

  平成二十七年三月二日             文部科学大臣 下村 博文

一 教科書展示会の開始の時期 平成二十七年六月十九日

二 教科書展示会の期間 十四日間



以上





1 中学校の英語教育について

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