私は、塾の英語講師(1対2の個別形式)を10年近く勤める中、某市公立中学校での英語教育の在り方に、多くの問題を感じるようになりました。問題改善のため、数年前から、市教育委員会に改善を依頼し、ご理解いただきました。しかし、実際の現場までは、なかなか浸透しません。どうしてでしょう。

  学校現場の先生方は、専門教科だけでなく、学校行事・部活動・生徒の非行対策から受験指導まで、やるべきことが山積しています。先進的な指導をしている中高一貫高校、町全体の国際化の取組みで、うまく生徒の英会話力向上につなげられているところは良いです。うまく行っていない地域はどうしたら良いのでしょう。

  私は、国は、大局を見るだけでなく、もっと細かい部分にも、目を向け、国として指導力を発揮していただきたいと思うのです。小さな町では、予算の関係もあるでしょうが、かなりの人材不足を感じます。効率的に英語が指導できるような、最低限のマニュアルを、国が作成して、全国に行き届くようにすることは、できないのでしょうか。

  ここで示している状況は、私の知る某市にだけに当てはまる事柄かも知れません。しかし、義務教育である公立中学校の英語教育であるからこそ、小中一貫校のようなエリート校だけに目を向けるのではなく、底辺であえいでいる学校の状況(内部から見れば普通でも、外部から見て初めて分かる、おかしいと思われる状況)にも、目を向けていただきたいのです。




1)教育委員会の在り方について

 教育委員会の役割は、 「教科書の採択、教職員人事・研修、学校の設置・管理」となっています。ところが、ある市教委では、「小学校・中学校の先生方を指導する立場にある英語担当者が、元小学校の教員で、英語に精通していなかった。」という事実があったことを知りました。(2014年10月) 「4〜5人の指導室担当者が、市内小中学校全8校全教科を見るので、仕方ないし、現在は、元中学の英語教員が入ったので、安心して欲しい」とのことでしたが、こんなことで良いのでしょうか。教育委員会及び事務局の、人手不足・人材不足を感じます。

 この問題に気づいたのは、2013年に会話力重視の教科書に変更になり、市内中学生の英語理解に混乱が生じ始めたため、市教委に改善をお願いしている時でした。教科書変更前から、同市の中学生には、「be動詞と一般動詞の使い分け」に苦手な生徒が多かったのですが、教科書変更のせいか、状況は悪化し、中1の躓きは中2になっても響くようになったのです。2年近くに渡って、問題を訴えた相手の担当者が、英語に精通している方ではないと分かった時には、本当にショックでした。

 参考:教科書が適切に選定されていない

 英語教育の環境がいろいろ変わってきている中、「教師の研修」というのも、とても大事な事と思いますが、適切な研修を継続的に行うといのは、このような状況では非常に難しいと感じました。世間一般の理解は、「教育委員の英語担当者とは、英語教育を熟知し、最適な生徒指導の方法を常に考えている人」ではないかと、私は思います。そうでなければ、先生方が進む方向を迷ったり、間違えたりした場合に、誰が指導できるのでしょうか。「教育熱心な保護者の方々」がこの現状を知ったら、どういうことになるのかと思います。

 ただ、現在の同市の担当の方(英語以外の2教科も担当)には、ここ数年、私が同市の中学生を指導する中考えてきた指導法で、担当者が有効と判断されたことは、先生方に研修などを通じ伝えて下さるなど、多少の改善は見られるようになりました。(2015年5月)

 
参考:学年別、学期別、効率的な英語指導法・提案




2)適切な英語教材について

  英語の授業で使用する教科書は、各市町村ごとに異なるかもしれません。しかし、動詞の活用などは、毎年変わるものではないのです。履修すべき動詞も、学習指導要領などで、決まっているのではないでしょうか。それでは、なぜ、動詞の活用表などが、各学校、各クラスで、配布されたり、配布されなかったり、分かり易いものがあったり、分かりにくいものがあったりするのでしょうか。この点を、忙しい先生方個人任せにして、何のメリットがあるのでしょう。動詞の活用表などは、最適と思われるものを作成し、適切な時期に、すべての生徒に、配布することはできないのでしょうか。このあたりのことも、「市の教育委員会としては、提案はできるけれど、押し付けることはできない」ということで、改善するのも一苦労です。

 
覚えるべき文法…動詞の活用など、覚えるべき時期

  教科書の副教材(プリントも含む)についても同様です。同じ市町村の学校ならば、教科書は同じはずなのに、副教材は、学校ごとどころか、先生ごとにバラバラです。例えば、教科書の英文和訳について、今流行(?)の「前から訳す直訳」のプリントを配る先生と、「意訳」のプリントだけを配り、授業中もきっちり直訳をしない先生がいるのです。中学だけでなく、公立高校でも、そのような学校があり、「意訳しか教えない先生に当たると、生徒の英語力ががっくり落ちる」ということが、実際起きています。

  産休や病欠で、先生が途中で代わられた時、1ヶ月以上、英語の授業が自習になった学校や、1年間に3回も先生が代わった学校がありました。そんな学校は、英語授業の進度に大きなムラが出て、結局生徒が混乱しました。塾に通っている生徒でさえ混乱してしまうので、通えない生徒は大変です。(この件に関しては、10年ほど前に、教育長に直接話す機会がありました。その時、「代替教員は2週間で来ることになっていて、それほど問題ではないが善処する。」というお話でしたが、当時もその後も、運の悪い生徒は、同様の負担を負っています。)

  こんな時思うのは、「誰もが使えるしっかりした副教材を、市町村ごとに一律予め用意しておき、先生の欠員が出た時に、生徒に迷惑をかけないようにできないか」ということです。生徒にとっては、中学は一度きり。運が悪かったから英語が出来なくなったでは、あまりにもかわいそうに思います。

  文科省や千葉県教育委員会の方からも、相当数の英語教育に役立つ情報が、各市町村にメールなどで送られ、その都度、各教員にも配布されていると、市の教育委員から伺いました。しかし、お忙しい先生方個人が、多忙な資料をすべて読み込み、効果のありそうなものをしっかりと取り出すというのは大変です。私自身も、いくつかの町の英語教育に関する公式ホームページを見て、ビックリするように良くできたものに行きついたことがあります。しかし、それは、膨大な資料の中で、たまたま見つけられたものです。何が良い資料であり、それをどのように活用すれば、効率的で、レベルの高い授業につながるのか。誰かが、わかりやすく整理し、現場の先生方に伝える方法を考える必要があるのではないかと感じています。

  このあたりの事は、以前は教育委員会で指導できると思っていました。しかし、上記1のような状況下では、とても大変なこととわかりました。国から都道府県、さらに市町村へ、ある程度広範な地域で共有できるような、病欠などの先生が出ても、生徒が自習である程度理解できるような、しっかりした副教材(私立校で良く使われる、わかりやすい文法書など)を、用意したり使うように、指導できないのでしょうか。




3)英語を話せるようになるために、必要な事について


  2012年6月23日の読売新聞の記事(英語で教える)に、会話重視の学習指導要領改訂に関し、同時通訳者として有名だった鳥飼玖美子さんの記事が出ていました。その中に、「文章を組み立てたり、丁寧な言い方にしたり、コミュニケーションするなら文法力は必須だと肝に銘して欲しい」と言う言葉が紹介されていました。私などが言うのもおこがましいですが、全く同感です。

  将来は、英語で英語の授業を行うということで、危惧するのが、英文和訳(直訳)の不足です。今でも、しっかりやっている学校とそうでない学校で、生徒の英語力に差が出ています。日本のエリート校(小中一貫校を含む)ではない公立中学は、アメリカンスクールや、国として英語力を重視するブータンのように、すべての授業を小学校1年生から英語で行っているようなところとは違います。私の考えでは、英文直訳ができて初めて、しっかりした和文英訳、さらに、何となくではない、本当の英会話力につながると思うのです。しかし、直訳をせず、意訳のプリントだけ配って済ませるような先生もいます。映画字幕翻訳で有名な戸田奈津子さんは、「この仕事は英語力より、4分の3は日本語力」とおっしゃっているのを聞いたことがあります。戸田さんは英会話もご堪能ですが、プロの英語翻訳家でも、英会話を苦手とする人は、かなり居ると思います。英会話力と翻訳力が全く別物と同じように、直訳と意訳も、全く別物なのです。そのあたりが、教育現場であいまいにされていることが、日本人が何年も英語をやっても、英語を話せない理由の1つと考えますが、いかがでしょう。

 
英文和訳は、必ず直訳を!そして音読しよう!

 
英語を話せるようになるための英作文

  国は、「英語で授業」を強調するだけでなく、「英語を話せるようになるために、本当に必要なことは何か」を、具体的に教育現場に示してほしいと思います。

 なお、小学校でのローマ字指導について、気になることがあります。小学校では、ヘボン式ではなく、訓令式でローマ字を教えているところもあるようです。これが主流なのかは確認していませんし、いろいろな考えに基づき、このようになっているとは思いますが、「内田」と言う苗字を、「Uchida(ヘボン式)」ではなく、「Utida(訓令式)」と書かせるような教育は、「英語を話せるような教育」と言う観点からは、大問題と感じます。

 ローマ字も英語らしい発音で練習しよう!




4)英語だけで進める授業と、教師の英語力について

 
《先生方へのサポートが必要なのでは?》

*文法は日本語で進めた方が、生徒の理解が深まるのでは?

  2013年から、高校の英語授業はすべて英語で行い、2020年度から中学校でも、その方向にする文科省の方針という記事を見ました。英語の授業で、教師がほとんど英語を話さない(話せない?)事が当たり前だった古い教育を考えると、隔世の感があります。2012年6月1日に読売新聞に掲載されていた記事中、半分以上を英語で授業する公立高普通科教員の割合が、ほとんど英語で授業する教員も含めて52.4%(2010年、文科省調査より)と出ていました。しかし、2015年2月現在でさえ、実際の高校生を塾で見ていて、そんなに英語が使われているとは信じられません。今でも全く英語を話さない(話せない?)高校教師もいるのです。

  しかし、「英語の授業をすべて英語で」というのは、本当に効率的な英語力向上に寄与するのでしょうか。「英語だけの授業の導入で、教員が一方的に話すケースも見られ、コミュニケーション重視のさらなる強化が必要と考えた。」と、文科省改革プランについての同省幹部のコメントも見ました(2014.1.6読売新聞)。

  また、ある国際系の公立高校の教師は、すべて英語で授業を進めていますが、生徒から見て、英語ネイティブのALTの言っていることはわかっても、その教師の話す英語が理解しにくく、文法の説明も少ないので、生徒間の評判が非常に悪いと聞きました。同じ学校内でも、「文法説明などは日本語でし、授業は英語と日本語、半々くらい使う先生の方が分かり易く英語力が高まる気がする」とのことでした。その学校は、副教材が充実していて、英語の直訳や文法説明もわかり易く出ていましたが、それでも、先生の日本語によるサポートは必要と感じました。

  公立中学校でも、海外研修帰りの先生が、どんどん英語を話し、ほとんどの生徒が理解できていないまま授業が進むという話も聞きました。日常的に、英語に触れる機会が少ない日本人が、いきなりすべて英語というのは、かなり乱暴な話と思います。授業で使う英語など、ある程度限られているので、予め、先生の話す英語がどのようなものか、プリントを配るなり、生徒にその都度日本語で説明を付ければ、多くの生徒が理解でけると思います。また、授業で使う指示英語ぐらい、国で用意していれば、英語を話すことが苦手な先生にとっても、役立つのではないでしょうか。

 
中学・高校の授業で使われる、英語での指示文



*先生方の英会話力をどう維持・向上させるか?

  授業での英語の多様で、生徒が混乱するケースを書きましたが、実際は、あまり英語を話せない先生方も多いような印象があります。
文科省調査で 英検準1級程度の力を持つ英語教員が、中学校では3割未満(2014.8.24読売新聞「教育改革は今」の記事より)とありました。あまりに低いことに驚きでした。ただ、私自身、20代で英検準1級を取りましたが、聞く力はともかく、話す力は、今と比べてかなりひどいものでした。英検準1級を持っていることが、英語を話す力には、必ずしも結びつかないとも思います。つまり、現場の先生方の英会話力というのは、世間一般の人が考えるより、ずっと低のではないでしょうか。

 
英検とは? 合格正答率60%という問題点

  1〜2年程度の海外留学や海外勤務の経験があると、「英語がペラペラ」というイメージを持つ人も多いですが、普通、帰国後ほとんど英語を使わなければ、聞く力はともかく、話す力は衰えてしまいます。私は海外生活の経験はありませんが、中学生を塾で教えるようになってからの方が、以前に比べ、英語を話す力が向上しました。生徒に教える際、簡単で基本的な例文を、繰り返し音読して説明したことで、自分の話す力も高まったと思われます。さらに、私が基本例文音読重視の指導をしてきた生徒の中には、高校入学後、一度も海外滞在経験がないのに、先生や生徒から、「帰国子女」と間違われる生徒もいます。

  一部の教員を外国に派遣研修をし、生徒の英語力向上につなげようとする話も聞きます。しかし、英語は「継続が力」の教科なのです。すべての先生方が、定期的に、継続的に、国内で英語力向上測れるような研修制度が、必要なのではないでしょうか。先生方が、ご自分で受講料を払って英会話スクールに通っているという話もあります。やる気のある先生方に、手厚いサポートをお願いしたいです。



*先生方のために、英語の授業の進め方のマニュアルを作る必要があるのでは?

  私は以前、ECCジュニア幼稚園児対象英会話講師の研修(実際幼稚園で教えた経験はありませんが・・・)を受けたことがあります。そこでは、押さえておきたい発音の基本だけではなく、腹式呼吸まで練習させられました。大人数の児童の注意を引き続けることは大変です。相手に伝わり易い発声をすることが、いかに大切かを学びました。また、50分間の模擬授業体験もやりました。いろいろなゲームや遊びを、ほとんど英語を使って、園児を飽きさせないように進めていきます。台本のような、完璧なマニュアル(ひな型)があり、約50分間分の台詞や段取り、すべて書き出されていました。覚えるには、そこそこ時間はかかりましたが、しっかり覚えてしまえば、研修生の英語の実力に関係なく、素晴らしい授業ができると思えました。1授業のみの台本でも、園児を指導する言い回しは、大体決まっています。繰り返し同じ英語を使うことで、園児の理解にも役立ち、しっかりしたマニュアルを完璧に覚えることは、応用にもつなげられると思いました。

  中学校でも、このような台本を作っておくことは、十分効果があると思います。英語の教科化が見込まれる小学校においては、なおさらです。





  教員の指導力向上についての問題は、いろいろなところで指摘されています。研修会を開いても、部活の指導など多忙を極め、出席できない(しない?)教員もいると聞いたことがあります。逆に、「英語で教えるための研修はなく、私費で民間セミナーを受けている」(千葉県高校教諭談、2014.1.6読売新聞)と言う話もありました。

  今は、予備校の授業もインターネットで受けられる時代です。授業で使う英語など、初めのうちは、限られたもので十分なはずです。「英語教育推進リーダー」を育てるために、先生を海外に派遣する(2013.8.31読売新聞)のも良いですが、すべての先生が、手軽に英語で英語を指導する方法を学べるような、模範授業のビデオを作り、公開してはどうでしょう。既に、うまく英語で授業されている先生方もいらっしゃるようですから、そんな授業風景を公開するなど、それほど難しいこととは思われませんが、いかがでしょう。

(以上 2015年5月1日現在)




 

 

4 公立中学校の英語教育について
  文部科学省・英語教育改革担当者に改善いただき事

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